花ごよみ
夢の桜



石山寺の境内の中奥に「光堂」というお堂があります。そのすそ野には「源氏の苑」が広がり、一帯には「夢の桜」という早咲きの桜が植えられています。
この桜は、昭和60年(1985)に起きた日航ジャンボ機の墜落事故がきっかけとなり、植えられた桜です。そこには事故によって犠牲となった520名のかけがえのない人たちの慰霊と、空の安全への強い願いが込められています。
この大きな事故で娘を亡くした方がいました。その方は悲しみに暮れ、哀惜の念に苦しんでいました。ある時、夢をご覧になったといいます。娘を先頭にして山を登る人たちがいて、その先にはお堂が建っている。そして、辺り一面に桜が咲いていました。振り向いた娘の顔は嬉しそうで、そばにはみ仏様がいたといいます。
その夢をきっかけに、その方は当時の石山寺の座主にお願いし、三年をかけて520本の桜の苗木を送り続けました。それから22年後、この場所に「光堂」が落慶される前にその方が訪ねてきました。光堂へ続く山道には、成長した桜が咲いていました。それは、夢で見たのと同じ光景でした。
「夢の桜」は、主に石山寺の「源氏の苑」、光堂の周辺に植えられています。最初はを植えたところから、現在はやなど、早咲きの桜を中心に十種類の桜があり、早いときには二月ごろから美しい花を咲かせてくれます。
事故から40年以上が経ち、桜の数も減ってしまいましたが、現在では事故の現場である上野村からも桜の苗を送っていただけるようになりました。それを石山の山に植え、「慰霊の苑」へも石山寺から桜の苗をお送りする、という交流も行われました。
いのちは生まれ変わりを繰り返し、何らかの形になって続いていきます。寒風の中で、はかなくも美しく咲く桜は、いのちの尊さを教えてくれます。それは慰霊の桜であり、同時に、今を生きる人を応援してくれる桜でもあるのです。






