第七回石山寺俳句大賞 入選発表
今年も石山寺俳句大賞に多くの方にご参加いただき誠にありがとうございました。
全750句の投句から入選作を決定しました。入選された方、おめでとうございます。
応募総数 750句
◯紫式部賞(最優秀賞)2本
・石山寺・門前共通商品券「光ルくんチケット」3000円分ほか
おぼろ月 筆を誘いて 石の寺
霞がかかるおぼろ月のどこか儚い思いと紫式部が『源氏物語』の着想を得たと伝えられる石山寺の文学の寺としての一面をうまく表現しています。春の季語である「朧月」と中秋の名月の澄んだ満月では、季節によって印象も様々ですが、「月(石山の秋月)」「筆(源氏物語)」「石(硅灰石)」は、まさに石山寺をイメージさせる「三種の神器」ともいえるでしょう。
風立ちぬ 紫苑のころは 君もなし
「風立ちぬ」と「紫苑」は共に秋の季語であり、「紫苑」は薄紫色の植物で、かの紫式部の『源氏物語』にも登場しています。フランスの詩人ヴァレリーの詩の一節から着想を得た堀辰雄の『風立ちぬ』では、風が吹いてきた、愛する人との別れや困難を目の前にしても、それでも生きてゆかねばというメッセージがこめられています。「紫苑」の花言葉は「君を忘れない」であり、読み手の想像をふくらませてくれるとても文学的な句です。
◯松尾芭蕉賞(優秀賞)3本
・石山寺・門前共通商品券「光ルくんチケット」2400円分ほか
わらわらと 主へ集ふ 猫の秋
「わらわらと」はバラバラに、好き勝手に猫たちが主人のもとへ集まってくる様子のことですが、猫は基本的に群れをつくらない独立性をもつ特徴があるので、ある意味猫さんあるあるです。
「わらわら」という語感は、なんともほのぼのとした温かい愛情を感じます。
松尾芭蕉も「猫の恋やむとき閨(ねや)の朧月」のような、猫を詠んだ句をいくつも残しています。
秋風や 式部のうちの 恋の息
松尾芭蕉の「奥の細道」での石川県小松市の那谷寺(なたでら)で詠んだ「石山の石より白し秋の風」という句があります。寺の境内にそそり立つ白石よりも秋風が一層清く感じるさまを詠んだ句ですが、奇しくも同じ石山という場所で、紫式部が参籠し「源氏物語」の着想を得たという石山寺に吹く秋風は少しばかりロマンチックな風に感じるのかもしれませんね。
湖面まで 硯となりぬ 月今宵
琵琶湖のしーんと静まりかえった漆黒の湖面を、夜空の中秋の名月を映しだす大きな硯に見立てた情景が浮かんでくるような美しい表現です。松尾芭蕉は二見ヶ浦で「硯かと拾うやくぼき石の露」という句を尊敬する西行法師を偲んで詠んでいますが、自然の小さな石の中にも、月が浮かぶ湖面にも、筆を執るというその先の創造的な奥行きまでも感じさせてくれます。
◯石山秋月賞(佳作)5本
・石山寺・門前共通商品券「光ルくんチケット」1200円分ほか
母の手へ ずっしり重き 長十郎
長十郎は秋の季語である「梨」の子季語です。ずっしり重きという表現から、豊作によりできのよい長十郎(梨)が収穫できたことへの感謝にもとれ、また、重きという言葉の反対の意味合いで、年老いて軽くなった母への感謝をくみとることもできますが、どちらにせよ、きっと美味しい長十郎には違いありません。
月今宵 写経の墨の 香る風
「月今宵」は中秋の名月の夜のことを指す季語です。人間の五感のうち「嗅覚」は感情や記憶に直接的に結びつくといわれており、香り(匂い)は特別な記憶を呼び戻してくれるメモリーとなります。
紫式部も月を見上げて、その時に風が運んだいつかの記憶や感情が、創作へと導くきっかけになったのかもしれませんね。
伽藍出て えにしの糸の 赤蜻蛉
石山寺は伽藍山という山の中にあり、縁結びのお寺としても有名です。
赤蜻蛉も良運をもたらす象徴ともいわれていますが、参拝をして自らが内なる気持ちを前向きにとらえていくことが、赤い糸を手繰っていくことに他ならないのではと感じます。
灯る地を 灯せぬ町を 月渡る
世界ではいまだ戦争が続いている国々や、日本でも地震や水害などの自然災害で甚大な被害をうけている地域もあります。生活インフラが遮断され夜になっても真っ暗なまま灯りのない町や地域にも、平等に月は上り、町を照らし出します。当たり前のことを、ありがたいと感じる心を忘れてはいけないと感じます。
秋夜長 栞いらずの 一気読み
「秋」と「夜長」はともに秋の季語であるため季重なりではありますが、夜の時間が長くなり、今まで積んでいた本を手に取るには絶好の季節です。ついつい時間を忘れ、完読してしまうその心意気のようなものがすがすがしく感じられます。
◯雅賞(特別審査員賞)2本
・石山寺・門前共通商品券「光ルくんチケット」3000円分ほか
薄綿を 纏い休むる 無月かな
無月は、せっかくの中秋の名月に雲がかかってしまい、見ることのできない状態のことを指す季語ですね。わくわくしていた気持ちが、ふいになってしまってがっかり。薄手の布団にくるまって早く眠りにつこうというふて寝にも思えるし、月そのものが、今夜は休ませてもらいますと雲隠れしているようにも感じられます。
(評:野村雅夫)
秋空は アップルパイの 味がした
カラッとして澄んだ高くて広い空。見上げながらのんびり過ごしていると、遠い日の記憶が蘇ってきたかもしれませんね。秋の日はつるべ落とし。見る間に空は赤く染まる。いつかの母が作ってくれたアップルパイ、おいしかったなぁ。俳句につられ、僕も自分の思い出がよぎりました。天高く馬肥ゆる秋ですから、自然と記憶が胃袋と接続してしまうのでしょうか。
(評:野村雅夫)
【審査員より】
今年もホームページとX(旧ツイッター)での投句受付をさせていただきましたが、今年は、おひとり5句までの応募制限を設けましたが、昨年より大幅に上回る投句をいただき、また、幅広い年代からご応募をいただきましたこと心より御礼申し上げます。
全国からたくさんの投句をいただき、1句1句すべての句を拝見し、時間をかけて選考させていただきました。句にこめられた皆様のそれぞれの思いを十分汲み取れないことも多分にあるかもしれませんが、どうかお許しいただきますようお願いいたします。
秋の石山寺の恒例行事となってまいりましたこの「俳句大賞」ですが、また皆様のたくさんの名句を心待ちにしております。
今回も特別審査員を務めていただいた野村雅夫さんのラジオ番組 FMCOCOLO「CIAO765」でも、俳句大賞をいつも熱く紹介していただきますこと、この場をお借りして御礼申し上げます。
FM COCOLO「CIAO765」(毎週月~木 11:00~15:00)
https://cocolo.jp/site/blog/1110
